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ブログ 2018.11.29 まちづくりにおけるシェアの思想- 梶原×猪熊純氏対談@上海日本領事館・MUJI HOTEL BEIJING

先日上海と北京で、会長の梶原と成瀬・猪熊設計事務所の猪熊純さんとの講演会が開催されました。

このイベントは日中友好条約締結40周年を記念した在中日本大使館の「日中交流集中月間」のイベントの一環として開催されました。

上海は日本領事館内のイベントホールで、北京はMUJI HOTEL BEIJINGで開催され、建築・デザイン・ライフスタイルに興味のある現地の方を中心にどちらも募集人数を大きく上回る応募をいただき、当日は立ち見が多数でるほどの盛況ぶりでした。

上海・日本領事館内のイベントホール
上海・日本領事館内のイベントホール
北京MUJI HOTEL BEIJING 1階 BOOK LOUNGE
北京MUJI HOTEL BEIJING 1階 BOOK LOUNGE

「まちづくりにおけるシェアの思想−日本で生まれる新たなコミュニティの作り方」をテーマに開催した今回の講演会、まずは梶原、猪熊さんそれぞれからこれまで手がけてきた事例を「シェア」の視点を踏まえて紹介。その後上海では梶原と猪熊さんの対談を、北京では燕京里というというまちの開発を手がけた侯正華氏、空間共有の携帯電話アプを開発した范阳氏が参加して4人での鼎談を開催しました。

分かち合うことは豊かに暮らすための大きなプラスに

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”ホテルを考えるとき、そこに宿泊する観光客の方にだけ向くのではなくて、まちに開かれていて、そのまちのみなさんのリビングであったりダイニングであったりすることを大事にしています”

”独占して保有するのはプライベート性などいいところもありますが、みんなで分かちあうこと、それは豊かに暮らすための大きなプラスになってくるのではないかと考えています。”(梶原)

当時まだあまりなかったコワーキングスペースやそこに集まるクリエイターがシェアして使えるギャラリーを組み込んだCLASKAや、共用部にギャラリーを設けたホテル アンテルーム 京都、まちのリビング、まちの図書館をイメージしたライブラリ&ブックショップをフロント脇においたMUJI HOTEL BEIJING
当時まだあまりなかったコワーキングスペースやそこに集まるクリエイターがシェアして使えるギャラリーを組み込んだCLASKAや、共用部にギャラリーを設けたホテル アンテルーム 京都、まちのリビング、まちの図書館をイメージしたライブラリ&ブックショップをフロント脇においたMUJI HOTEL BEIJING
みんなで土地を買って工事を発注してみんなで所有するコーラティブハウス、まちの緑をシェアする考え方を取り入れた代々木ヴィレッジ、公園をシェアするこどもの森
みんなで土地を買って工事を発注してみんなで所有するコーラティブハウス、まちの緑をシェアする考え方を取り入れた代々木ヴィレッジ、公園をシェアするこどもの森

いろんな分野でおこっている矛盾を解決する”シェア”

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”価値観が変わる時代になると、ビジネスモデルも変化し、結果として建物の設計も変わっていきます。今、日本は平均の世帯人数が2人台で、いろんなことが変わる時期になっていて、様々な分野で矛盾や問題が起こっています。その矛盾をシェアが解決できるのではないかと思って取り組んでいます。”(猪熊さん)

一人暮らしの若い単身者向けのシェアハウス、様々な年齢、人種、家族構成の人が一緒に暮らすコレクティブハウス、コミュニティカフェ(猪熊さんプレゼン資料より)
一人暮らしの若い単身者向けのシェアハウス、様々な年齢、人種、家族構成の人が一緒に暮らすコレクティブハウス、コミュニティカフェ(猪熊さんプレゼン資料より)

対談:梶原文生 × 猪熊純

東洋的なシェアの考え方

梶原:手がけられたシェアハウスが第15回ヴェネチア・ビエンナーレで特別表彰(Special Mention)を受賞されています。東洋的なシェアの考え方と西洋的なシェアの考え方は違うと思いますが、どういった点が評価されたと思われますか?

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Special Mentionを受賞された新築のシェアハウスLT城西

猪熊:審査員には、ヨーロッパではソーシャルハウジングなど、政府がお金出した福祉的な施設や低所得者向けのシェアハウスはあるが、民間でちゃんと価値付けをして事業成り立たせて、というのは珍しい。日本はいい国だねと言われました 笑。
もうひとつは、共有部も入り組んでいて、プライベートが共用部まで滲み出しているような、プライベートとパブリックの棲み分けにグラデーションのある空間のつくりかたですね。ヨーロッパはそのあたりをきっちり分けるのですが、適当になっているところが面白い、と言わました。

梶原:その点はわたしも感じます。上海の住宅からはみ出ている洗濯物とか、四合院的に庭を共有しているとか。プライベートとパブリックが曖昧になっていますよね。そういうとことに東洋的なシェアの感覚を感じます。

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クリエイターとしての哲学

梶原:新しいものを作っていくときの「コツ」というか、クリエイターとして大切にしていることってどんな点ですか?

猪熊:今目の前にあるものを、常に常識を取り去って、新しいものを見るような目で見れることが一番大事だと思っています。例えば前日にスタッフと打ち合わせして決まったものを翌日また初めて見るような目で見ること。それで時には違う、といえること(笑)。梶原さんはどうですか?

梶原:デザインとしてかっこよくて、事業としてちゃんと儲かって、社会的意義があること。これを企画をするときの哲学として常に考えています。3つが全てちゃんと成り立つことはすごく難しいことですが、最後の最後まで、完成しかけている時でも、考え続けるようにしています。

質疑応答より

参加者の方:人の交流を促すシェアは日本でも中国でも受け入れられていますが、一方で、AIで人をなくす動きも加速しています。その2つがお互いにどう影響をおよぼしていくか、そして建築家やデザイナーはどういう役割を果たしていけるとお考えですか。

梶原:無人化することで良い点もあるので否定はしません。一方で生活に必要なものが全てあって、余暇も楽しめる今の時代に「豊かに暮らす」ことはこれからの大きなテーマになってくると思います。そんな中で、人と人とが繋がり、誰かの役にたって「ありがとう」と言ってもらえる、そういうことが豊かさにつながってくると考えています。ですので設計の人間としては、コミュニティが生まれる場を意識して作っていくことが大事だと思っています。

猪熊:車みたいな便利なものがありますが、それでも自転車に乗る人やハイキングにいく人がいて、人が歩かなくなることはありません。同じようなことがコミュニケーションの中にもあると思っています。人は一人では生きられません。これが根本にある思います。人と人とのコミュニケーションが生まれるようなことを企画しながらやっていきたいと思っています。

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対談のなかで、猪熊さんからの「日本の次の国としてなぜ中国を選ばれたのかとすごく伺いたいと思っていたのです」という質問に梶原は

「日本人として日本文化が大好きで日本の建築も大好きです。その日本の建築の歴史をたどれば中国に行き着きます。約1500年前に中国から僧侶の方が日本に来て仏教と寺院建築を伝えてくれたのが基礎になっていますので、日本は建築を伝えていただいた、シェアしていただいた恩があります。その後長い時間をかけてどんどん日本流にしてきたのが今の日本の建築ですが、それを現在の中国の建築にもシェアすることで、少しでもお役に立てることがあるのではないかという思いがありました。今日もその恩返しの気持ちを持ちながら、この場に立っています」

と話しました。
現地法人誉都思も100名を超える規模になり、今回のような機会をいただけるようになりました。驚くスピードで進んでいる中国で、新しいまちづくりやより豊かなライフスタイルに貢献できるよう、引き続きスタッフ一同取り組んでまいります。

関係者のみなさま、ご参加いただいたみなさま、貴重な機会をいただきまして、ありがとうございました。