日本の認知症患者は約500万人となっており、総人口の3〜4人に一人が高齢者で、さらにそのうち7人に1人が認知症であると言われています。問題の焦点を当事者にするのではなく、社会そのものを変え、まち全体が認知症の人々やその周りの人々の暮らしやすい環境になっていくことが求められています。
2019年2月6日、神保町ブックセンターで『認知症フレンドリー社会』(岩波書店)の記念トークイベントを開催しました。
登壇いただいたのは、著者である徳田雄人さん。徳田さんは元NHKのディレクターで、取材を通して認知症を取り巻く社会の実態を知り、現在は認知症の課題に関わる人材を増やす活動を行っています。もう一人のゲストとしてデイサービス「DAYS BLG!」(東京・町田)代表で認知症当事者たちの働く環境と社会との繋がりづくりを実践する前田隆行さんをお迎えし、UDS中川が聞き手として認知症フレンドリー社会実現について多方面から考える、トークイベントとなりました。
UDSでは、まちづくりの福祉・保健分野の領域にも企画提案を進行中ということもあり、昨年「超高齢社会における東京のあり方懇談会」(主催:東京都)でご一緒した徳田さんにお声がけをし、今回のイベントの開催となりました。
問題は当事者ではなく、取り巻く環境・社会にある
今回の書籍でも語られる「認知症フレンドリー」という言葉は「認知症の人に優しくしよう」ということではなく、「認知症の人にとって使いやすく適応したものにしていく」ということ。そのようなサービスや商品は、認知症だけでなく高齢者全般・子ども・障がい者にも適しているはずで、これからの私たちの社会をどうデザインするかの手がかりになっていくのではないでしょうか。
徳田さんにまず、本の出版に至ったきっかけを聞いていきます。
「最近、認知症に関するニュースが増えてきていますが、当事者が悪いという声が大きいことに危機感を抱いていて『当事者を支援する』から、発想を変えないと解決していかないと思っています。私は取材を通して、認知症の症状としては重いけれど幸せに暮らしている地域がある一方、軽度だけれども周りの目を気にして引きこもりがちになってしまう地域があることに気がつきました。問題は、当事者ではなく、暮らす環境や社会の方ではないかと思ったんです。」
中川がその発想の仕方について、まちづくりで感じる課題にも通ずると感じた点をお話しします。
「本の中でスコットランドの例として挙げられていた『私たちのことを、私たち抜きで決めないで』という言葉がとても印象的でした。私たちUDSが最初に手がけた事業であるコーポラティブハウスも、そこに住む当事者自身が自分の住まいを作って決めていくものです。今お手伝いしている日本の地域のまちづくりでも、私たちはあくまで周りからのサポート。地元の方がいかにシチズンシップを持って当事者として取り組めるかがとても大事だと感じています」
仲間とつながり、社会とつながる、「DAYS BLG!」でのメンバーの姿
前田さんが代表を務める町田のDAYS BLG!では、介護される側、利用する側を分けず、同じ活動をする仲間として「メンバー」と呼び、集合する時間以外は企業、地域とつながりながら思いを形にする活動を行なっています。
例えば、要介護3の認知症のメンバーの方々は日中にカーディーラーで洗車の仕事を。仲間とつながり、社会と繋がることで元気に明るく楽しく仕事をしています。
どうやって、枠を踏み越えているようなBLG!の活動を実現しているのですか?
前田さん:踏み越えているという感覚はないですね。
デイサービスというと普通、ずっと座っていなきゃいけなくて、立ち上がると心配されるくらいなんですよね。でも、なぜ当たり前に生きることができないのかと私は思うんです。抑制されている、こうあるべき、という自然体でない感覚は自分は苦手で。
洗車の仕事は、当事者の方と一緒にカーディーラーに出かけて行って、「何かここでできることはありますか?」と聞いていきました。認知症の方にもあたりまえに一人一人に個性があって、あるがままに向き合っています。
前田さんは自然にやっていらっしゃいますが、これからBLG!をもっと広げていくために「BLG!らしい空気をつくる3ヶ条」があるとしたらどんなものですか?
前田さん:そうですね、1つ目は、自分のこともさらけ出すことです。感情もさらけ出して、時には言い合いになることもありますね。2つ目は、ありのまま話すということ。話のタブーをつくらずに、みんなそれまでと変わらない話題で盛り上がっています。3つ目は、音楽ですかね。BGM、今どきのカフェで流れているような、リラックスできる曲をかけています。
認知症フレンドリー社会の実現へ、出版を通して目指す社会の姿
最後に、認知症フレンドリー社会の実現に向けて、今後の展望や期待する社会を語りました。
前田さん:もともと「福祉」「介護」という言葉は嫌いなんです。なぜ自分で生き方、過ごし方を選択できないのか、行政やまちが提供するものに対しても、これまでは「お世話になります」というものだったのが「サービスを選ぶ」という感覚が広まってくるのではないかと思います。そういう価値観の変化を期待しているし、「自分がここなら行きたい!」と思える場所をつくりたいです。
徳田さん:認知症ということが、商品開発のターゲットの視点に入ると良いと思います。例えば、本の中でも紹介している、バスの運転手さんが、降りるバス停を過ぎそうな時に声をかけてくれる「ヘルプカード」などは簡単な仕組みですが認識されるだけで結構変わるのではないかと思います。皆さんの本業の中で取り入れられることを考えて欲しいと思います。
BLG!は、ケアする場の設計と地域の人とのハブ機能という二つの異なる専門性が必要な仕組み。前田さんの場合はそれを一人でやられていますが、チームで分担して再現すると次のBLG!の展開が見えてくるのではないかと思います。
中川:場の企画や設計を行う立場からすると、例えば設計の世界に障がいや子どもに関する法律はありますが、認知症を考えて設計はしたことはありませんでした。何が必要なのかわからないし、認知症の人がくることを想定できていないんですよね。そういう点では企画者や設計者に対して啓蒙していくことが大事です。
ベンチマークになるようなものをコツコツと作り、世の中に浸透するためにトレンドとしてメディアに取り上げてもらえるように、2〜3事例を作っていくことが大事だと思います。
実際にデイサービスで働いている人のほか、今回をきっかけにアクションを起こそうという方も多く参加いただいた今回のイベント。福祉関係者や認知症フレンドリー社会の実現へ、関心のある企業や自治体の方からのお問い合わせもお待ちしています。
誰もが地域貢献できる社会へ
『認知症フレンドリー社会』刊行記念トークイベント
イベントURL: https://www.jimbocho-book.jp/679/
徳田 雄人(とくだ・たけひと)
1978年生、NPO法人認知症フレンドシップクラブ理事
2001年東京大学文学部を卒業後、NHKのディレクターとして、医療や介護に関する番組を制作。09年にNHKを退職し、認知症にかかわる活動を開始。10年より現職。NPOの活動とともに、認知症や高齢社会をテーマに、自治体や企業との協働事業やコンサルティング、国内外の認知症フレンドリーコミュニティに関する調査、認知症の人と家族のためのオンラインショップdfshopの運営などをしている。
前田 隆行(まえだ・たかゆき)
1976年生、DAYS BLG ! 代表・精神保健福祉士・ケアマネジャー・BLG!メンバー 認知症当事者と一緒に「想いをカタチ」へと実現すべく、認知症当事者が介護保険制度の中でサービスを利用しながら働けるよう、行政や企業と交渉を重ね、現在は認知症当事者が謝礼を受け取れるようになった。 最近は働くことを通じての仲間づくりや、居場所づくりに力点を置いて活動をしつつ、社会的課題を共有することで解決していくアイデアを実践中。