大家好!(みなさんこんにちは)誉都思・上海事務所の藤本です。
12月の上海は初雪が降るほどに、寒い日が続いております。北京は日中でも氷点下近くまで下がることが多いものの、市内には地域暖房を備えてあり寒さ対策が万全なのです。一方、上海にはそのような対策がなく、日々エアコンで対応する事しかできず冬の寒さが身にしみます・・・
今回の誉都思だよりでは、中国では初開催となったアートブックの祭典「UNFOLD 2018 SHANGHAI ART BOOK FAIR」を紹介します。
日本では2009年に「TOKYO ART BOOK FAIR」がスタートしアジア最大級のアートブックイベントとも言われ、ここ中国でも3年程前からじわじわと知名度を上げ盛り上がっています。今回はART BOOK FAIRの来場者としてではなく、自ら本を製作・販売した出展者の視点からイベントを紹介していきたいと思います。
ART BOOK FAIRとは
アートブックやZINEなどを製作する個人や団体、企業などがブースを持ち、来場者と直接交流しながら書籍の売買を行うイベントです。参加者の多くは、自費出版物を製作するアーティストから趣味として参加する方、規模の小さな独立系出版社など様々です。
その為、参加者にとっては個々の表現の場として、来場者にとっては多様な表現に直接触れることができる、且つ比較的リーズナブルにアートブックを購入できるとあり、東京では会期を通じ2万人を超える来場者が訪れ賑わいをみせていたそうです。
本を作ったきっかけ
東京に住んでいた頃から、TOKYO ART BOOK FAIRが好きで毎回参加し本を漁り楽しんでいたものの、いつか自分の本を作り出展したいなと漠然と考えていましたが、もう一歩踏込むきっかけを待っているような状態でした。
その後、上海へ拠点を移し暮らしていく中で日本文化への理解や尊敬が高まっていたころ、同じく上海で暮らす日本人の友人からART BOOK FAIRへ出展しないかと声をかけられました。海外という新天地で新たな事に挑戦したい気持ちと、上海の人々に日本の文化を伝えたい気持ちから二つ返事で参加を決めました。
作品の舞台は90年前から続く商店街の床屋
実際に私が作った本はこちら。「床屋本 TOKOYA BOOK」です。
本の価格は88元(日本円で約1,450円)。
中国で88元は「バーバー・ユアン」と読み、英語のBarberに掛けた金額設定です。ちなみに、中国で八という数字は、日本と同様に末広がりと考えとても縁起が良く好まれる数字です。
作品の題材となったのは、私の実家で営んでいる床屋です。
もともとは、曽祖父が1928年に商店街の一角に開業した床屋で、現在も細々と地域密着型で両親が営業しています。店舗兼住宅という環境だったので、私も小さい頃から両親の働く姿を眺めながら育っていました。
時が経ち、自分が日本を離れ外から眺めると、京都の深い歴史を持つお寺=日本文化ではなく、日本人が古くから愛し親しんできた喫茶店や銭湯、床屋など、暮らしの中に息づく場所や懐かしさを感じる文化こそが日本の個性であり、これからの観光資源になると強く感じました。
それと同時に、地域から愛されているお店であってもここ数年、後継者がいないなどの理由で失われつつある状況に危機感を感じ、まずは小さなことからでも自分でアクションを起こしたいと思い今回の本を製作しました。
出展したからこそ分かるイベントのライブ感
イベント会場内は人で溢れ、会場内に足を踏み入れた瞬間からその熱気に圧倒されるほどです。
そんな空気感の中、生まれて初めて自分で本を作り、イベントに出展し、来場者一人ひとりと交流し本を買ってもらうというライブ感は、仕事ともひと味違った刺激と達成感を感じました。
実際に私の本を手に取ってくれたの大多数の中国人には、床屋=ベッド(床)を売るお店だと勘違いをされました (笑) 。
来場者との交流の中で、改めて文化の違いを知ることができただけでなく、日本文化や自分の伝えたい事をこの様な形で手にと取り見てもらえることが本当に嬉しく、心から楽しむことができました。
ちなみに、印刷した30冊のうち14冊が売れ、原価+会場代程度の売上になりほっとしています。
本を通じて生まれた新しい出会い
今回のART BOOK FAIRには110店舗が出展し、うち51店舗は日本や海外から出展している方もおり、どのブースも出展者の個性が光っていました。会場を埋め尽くすほどの来場者の数に、上海でも益々注目されているイベントだと実感しました。
なかでも私が特に興味を持ったのは、上海近郊都市に拠点を構える独立系出版社「Jiazazhi Press/Library」の作品で、中国の実在するタバコの箱の中に、タバコのある風景を撮影した写真集が綴じられた作品や特殊なメガネを使って3Dに見せる写真集など、ひねりのあるユニークな作品にとても刺激を受けました。
今回は出展者という立場で初めて本を売る経験と達成感に加え、本を通じて有名無名、個人法人を問わず、多くのクリエイターの方々と出会い交流することができました。ネット時代と言われる現在だからこそ、直接会って話しをする事の大切さを改めて実感しました。
「床屋本 TOKOYA BOOK」の続編もあるかもしれませんので、どうぞお楽しみに!