今年の4月に神奈川県海老名市に開業したロマンスカーミュージアム。小田急電鉄により2011年から検討が進められてきたプロジェクトで、UDSではその事業企画段階から参画しています。どんな紆余曲折を経て開業したのか、当初から関わり続けている企画担当のひとり、鈴木に聞きました。
▼海老名駅すぐ、ロマンスカーが往来する線路のすぐ横に今年開業したロマンスカーミュージアム
2012年:鉄道ミュージアムのコンペに参加
退役車両の保存と一般公開を目的とした鉄道ミュージアムの検討が小田急社内でスタートしたのは、いまから10年前の2011年のこと。
小田急さんとの最初の接点は、箱根でのプロジェクトでした。そのときの担当の方が鉄道ミュージアムも担当されていて、UDSとしてのキッザニア東京の実績もご存知だったことから「鉄道ミュージアムのコンペに出ないか」とお声がけいただきました。2012年のことです。(鈴木)
迎えたプレゼン当日、他社から提出された分厚い提案資料や空間パースなどに紛れて、UDSからの提案資料は10ページにも満たない最小限のものでした。
口頭プレゼンでは資料内容の説明はほどほどに、「鉄道ミュージアムとして、単に広告施設としての位置づけでいいのか?」「一部のコアファンに向けてつくる、というやり方・考え方から変えていきませんか?」と、これからの鉄道ミュージアムに対する熱い思いを語りました。
他社と比べて圧倒的に枚数の少ない資料は「やる気がない」とも捉えられかねないものでしたが、その一方でプレゼンの語りは熱量たっぷり。ある意味なかなかインパクトのある提案だったのでは…と想像します。(鈴木)
コンペの結果が出るまでには小田急サイドでも色々な議論があったようですが、プレゼンのなかでお伝えした「今までと違う鉄道ミュージアムを」という点がみなさんの印象に残っていたようで、キッザニア東京の実績や、UDSとして施設の運営まで手掛けていた点などもあって最終的にUDSを選んでいただくことになりました。
2013-2015年:提案、提案、また提案
2013年当時、UDSとして提案していたコンセプトは「まちとつながる鉄道ミュージアム」。
車両での楽しい体験や日常使いしやすい仕掛けを散りばめ、鉄道ファンの方はもちろん、まちの方たちに愛される施設を目指して設定したコンセプトでした。
「保存車両」とあわせて「リノベーション車両」という提案も加え、計18の車両を置く計画を提案していました。
当時は「車両内での職業体験」や「車両ホテル」など、「リアルな車両をつかった体験」を提案に盛り込んでいましたが、一方で「希少価値の高い車両はそのままのかたちで保存していきたい」という声も多くあり、その気持ちも尊重したい、とチームみんなで相当悩みましたね。
またロマンスカーに限らず、役目を終えた通勤車両も活用していく方向で提案していましたが、結局、敷地の条件などから通勤車両を置くことが難しくなり、泣く泣く諦めることになったりもしました。(鈴木)
2016年-2021年:コンセプトの具現化へ
2016年には施設コンセプトの深化を目的に、そのヒントを求めて、小田急電鉄の当時の会長、社長へのインタビューを実施させてもらいました。
「小田急沿線の魅力は「都市と自然の融合」」
「沿線地域とともに発展してきた歴史がある」
「大人が見ても楽しいものにしたい」
といった想いを聞くことができ、それをもとに再考。そうして最終的に辿り着いたコンセプトが「”子ども”も”大人”も楽しめる ~旅・くらし・ロマンスカー~」でした。
単に鉄道の魅力や技術的な面を伝えるのではなく、小田急の歴史とともにある「沿線」にフォーカスをあてた施設づくりが、このプロジェクトには必要でした。「ロマンスカー」が象徴する新宿から箱根までの「旅」、そしてその間をつなぐ沿線地域で営まれる「くらし」までを伝えていける、新しいかたちのミュージアムを目指そう、と。
コンセプトが固まってからは(もちろん紆余曲折はありつつも)、早かったです。「旅」や「くらし」を感じられるコンテンツとしてジオラマやインタラクティブアートを入れたり、ロマンスカーはギャラリーとして魅せる展示にしたり。子どもだけでなく大人も楽しめるか?というのはひとつひとつの判断基準になりました。(鈴木)
そうして2017年の夏頃からは、外部パートナーの方にも加わっていただき、各コンテンツの内容を企画・検討していきました。
▼小田急の「たび」と「くらし」を感じられる、約190 m2 の沿線巨大ジオラマ
▼自分のつくったペーパークラフトが磁石の力で走るキッズジオラマ
▼インタラクティブアート “電車とつくるまち”では、小田急のまちづくりを体感
▼2020年夏〜秋には、夜間、展示用の車両を陸送しました
そして2021年4月、ついに開業を迎えたのでした。
2021年4月 開業
小田急電鉄としては10年越し、UDSとしては8年を超える一大プロジェクト。
度重なる検討の中でコンセプトも中身も少しずつ変化し続けてきたロマンスカーミュージアムですが、そんななかでも変わらなかったことがあります。それは「新しい鉄道ミュージアムを目指す」ということでした。
つくり手側の「当たり前」をベースにするのではなく、来た人がどう感じるか?を、一貫してエンドユーザー目線で考え続けてきました。
鉄道好きの人や、鉄道に特別な思い入れがある人はもちろんそうですが、そうした方だけでなく、沿線に住んでいる人、沿線の日常を知る人たちが、自分たちのくらしやロマンスカーでの旅、に思いを馳せることのできる、思い思いに楽しめる施設であってほしいなと思っています。
個人的にも、ずっと関わり続けてきた思い入れの強いプロジェクト。当時2歳だった長女は10歳になり、プロジェクトの間に産まれた次女も5歳。それだけ長い時間がかかったんだな、と改めて実感します。連れて行った娘は大はしゃぎで、嬉しかったですね。(鈴木)
こうして長い年月をへて開業したロマンスカーミュージアムは、開業以来、おかげさまで多くの方にご利用いただいています。
“子ども”も“大人”も楽しめる鉄道ミュージアムとして、たくさんの方に愛される施設を目指していきますので、お近くにお越しの際はぜひお立ち寄りください。
施設よりお知らせ
- 現在は新型コロナウイルス感染拡大防止のため、入館は事前予約制となっています。
- 当日の予約に空きがある場合に限り、ご入館時にエントランスにて、代表者氏名・居住地・電話番号・人数をご記入いただき、ご入館いただくことが可能です。
- 当日の各時間帯のご予約に空きがない場合は、ご入館いただけませんのであらかじめご了承ください。